本連載は2020年の8月から9月にかけて開催された『記念写真 before|after』展を再構成したものだ(展示後に新たに撮影された未発表作の公開も予定している)。2013年度のキヤノン写真新世紀で優秀賞を受賞した『記念写真』は海老原の代表作であり現在も制作が続けられている。コロナ禍に見舞われた観光地への再訪の記録を作家自身が綴る。
観光地にある団体客用の撮影台に作家がビジネススーツ姿でひとり立ち、現地の撮影業者に撮影してもらった写真を購入する。ネガやデータは手元に残らず、撮影依頼から購入までの一連の流れと、渡された1枚の観光写真が作品となる。また、撮影はもちろんポーズも立ち位置、使うカメラやプリントする機材も全てカメラマンに任せるため、紙もプリントの大きさも一定ではない。 ほぼ同じ構図、衣装はビジネススーツで統一することを『規則』として始めた「記念写真」シリーズであるが、始まってから数年が経った今、コロナウイルスの拡大により安易な移動ができなくなった。
だからこそ、以前行った観光地に再度訪れた記録である。
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2020年8月19日(水曜)・快晴・最高気温35度
蔵王連峰の御釜へ向かう前に、山形県東根市にある「伊勢そば」で田舎そばを食べる。ゴムのように太くて硬いそばと歯が欠けそうなくらい硬いかき揚げが印象的な店だ。本当は蔵王にある、自家飼育の羊から捌かれた日本一新鮮なジンギスカンが食べられる「バーベキュー白樺」に行きたかったのだが、予約で埋まっており行くことができなかったのだ。
見た目からは想像できないかもしれないが、とにかく硬い
以前、蔵王山に行ったときは蔵王エコーライン沿いの刈田駐車場に駐車し、ふもとにいた写真屋に記念写真を撮ってもらってからリフトに乗って山頂に向かったが、今回はふもとには寄らず、車で向かう。リフトが怖かったのもあるが、付近の人は閑散としており、到底写真屋がいるとは思えなかったからだ。
2016年に行った際のリフトの様子。乗車時間は8分(長さ470m)なぜこんなもので人を運ぼうと思ったのか全く意味がわからない。当時は写真撮影もやっていた。
山頂に近づくにつれて気温が下がり、35度あった気温は山頂に着くと20度まで下がっていた。家族連れやカップル、友人同士などの観光客が想像以上に多くいる。しかし、山頂一面が雲で覆われており、お釜どころか景色が全く見えない。春の終わりから夏場にかけて東からの風に乗って雲が発生し、景色が見えなくなる日が多いとは聞いていたが、今回はまさにその日に当たったというわけだ。
さて、ここで大きな問題が生じる。景色がまったく見えないため、「どこで記念写真を撮ったのかわからない」のだ。念のため、写真屋がいるかどうか土産店の店員に尋ねたが、今年はコロナの影響で写真屋も来ないとのこと。しかしコロナの影響どころか、3、4年来ていないと聞く。
以前撮影した際、カメラマンを含めて記録として撮っておいたのだが、これを見ても、どの位置なのかわからず。
「写真屋?ここ3、4年来ていないですよ。ずっと見ていないです」
「少し前に噴火があったのも関係しているのでしょうか」
「噴火がどうのこうのと言うのではなくて、写真を撮る団体さん自体が少なくなっているっていうのと、今年はコロナの影響で団体さん自体が動かないので」
「では収束しても来ないのでしょうか?」
「来る来ないというのがその年の営業始まってみないとわからないし、(※11月上旬~4月下旬は蔵王エコーライン・ハイラインの冬期通行止めに伴い、基本的に入山することができない)そういうのを決めるのは写真屋さんで、私たちも連絡先を知っているわけではないからこればっかりはわからないのよ」
「では、写真屋さんに連絡するしかないということでしょうか?」
「基本的に写真屋さんに連絡するのが一番確実かと思いますね。ああ、そういえば以前『今誰もがスマホを持っているので、あえて写真を撮ってもらうということが無くなった』と言っていましたね」
「そうなんですね、ありがとうございました」
蔵王山頂には、御釜でゆでた温泉たまごがある。今回も食べようと店員に聞いたら本日は売り切れとのことだった。