記念写真 before|after(四)/海老原祥子

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本連載は2020年の8月から9月にかけて開催された『記念写真 before|after』展を再構成したものだ(展示後に新たに撮影された未発表作の公開も予定している)。2013年度のキヤノン写真新世紀で優秀賞を受賞した『記念写真』は海老原の代表作であり現在も制作が続けられている。コロナ禍に見舞われた観光地への再訪の記録を作家自身が綴る。

観光地にある団体客用の撮影台に作家がビジネススーツ姿でひとり立ち、現地の撮影業者に撮影してもらった写真を購入する。ネガやデータは手元に残らず、撮影依頼から購入までの一連の流れと、渡された1枚の観光写真が作品となる。また、撮影はもちろんポーズも立ち位置、使うカメラやプリントする機材も全てカメラマンに任せるため、紙もプリントの大きさも一定ではない。 ほぼ同じ構図、衣装はビジネススーツで統一することを『規則』として始めた「記念写真」シリーズであるが、始まってから数年が経った今、コロナウイルスの拡大により安易な移動ができなくなった。

だからこそ、以前行った観光地に再度訪れた記録である。

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2020年8月16日(日曜)・快晴・最高気温32.8度

駐車場が開く8:30に合わせて青葉城へ向かう。

朝一だからか日曜なのに人もまばらで、以前撮影した記念写真と合わせて伊達政宗像の前に立ち、写真を撮る。
何枚か撮り、写真を確認しているとあることに気がつく。

「左端に見切れている屋台、以前の写真にも写っている…?」

『とうもろこし』と書かれた屋台は確かによく見ると同一のようである。
写真屋はもちろん、観光客もほぼいない状況で、この屋台で働く人なら何か知っていることがあるかもしれない。

「すみません、昔ここに写真屋さんがいたと思うのですが、今はもう来られていないのでしょうか?」
おそるおそる、屋台にいた女性に話しかける。

「いや、来ているけど、コロナの影響で予約しない限りは今のところ来ないかな」
予想通りである。朝早いとはいえ、観光客もまばらな状況を鑑みるに、写真屋が撤退しているのは察しがつく。

「連絡をすれば、撮っていただけますか?」
「9月からは来ると思うんだ。多分ね。だから、もし撮ってもらいたいのなら電話して聞いてみたらいいと思うよ」

なるほど。完全撤退はしていないようだ。さらに話を聞いてみる。

「コロナ前は常駐していたのでしょうか?」
「普通は4月から秋までずーっと来ているよ。冬は来ないんだけどね」
「今年は9月から復帰されると」
「8月中旬か、来月の初め頃からは来るって言っていたよ。学校もぼちぼち入ってきているからって」

学校=学校行事のことである。修学旅行も復活してきているのだろう。旅行だけではなく学校行事も復活してきていることにほんのりうれしさを感じる。

「では常駐もするかも?土日だけですよね」
「土日だけじゃないと思うよ。えみちゃんの電話番号教えるから、直接聞いてみて。会社は観光なんとか写真って言うんだけど、私は若い時から知っているから、『えみちゃん』って言っているんだよ」
そう言って、スマホの連絡先から電話番号を教えてもらう。

「ところで、10年くらい前に来た時も同じ屋台があったように思うんですけど…」
「10年前ならあったよ。写真屋さんとセットでね」
「へー!」
「うそだよ(笑)」
以前撮った時の屋台と同一であることがわかったところで次の質問に進む。

「ちなみに何年前からやっているんですか?」
「ん?聞きたい?」
両手のひらを見せてくる。
「…40年?」
「いや、50年よ」
何を勘違いしたのか見当違いのことを言ってしまった。

「それはすごいですね!」
「でもさすがに年取ってきたからね、毎日いるってことはないのよ。今年はコロナの影響で4月は2回しか出なくてあとは休み。5月の15日から出てみたけんど、あんまりにひどいんで(人出が少ない)土日だけにしていたんだけど、学校が休みになった8月9日からは毎日来ているよ。」

「そうなんですね。50年続けているの、すごいことですよね。」

「修学旅行で来た子が大人になって、子供連れてきてくれて。その時に撮った写真を見せてくれたこともあったよ。お互い若いねーなんて言って」
「へー、そんな出会いがあるなんて素敵ですね!」
「そうなのよ」

話を聞いている間も、通りかかった親子や学生から「とうもろこしはありますか?」と、声をかけられる。このままだと商売の邪魔になると思い

「長々とすみません。また遊びにきますね」
「うん、えみちゃんに連絡してみてね」
「はい、お元気でいてください」

別れた後、そういえば、とうもろこしを買えばよかったと思い至る。
次に行った時には必ず買おう。そして、以前の写真と、今回撮影した写真をプリントして見せよう。

 

「炭焼牛たん おやま」
https://goo.gl/maps/oSgwafrjuWUfqGWJ7
1軒めに行った牛タン有名店が味も態度も最悪だったので、お口直しに飛び込み来店。
素朴な雰囲気にもかかわらず、厚めのタンは程よい歯応えを残しながらも実にジューシーで、噛めばかむほど、口の中いっぱいにうま味が広がります。