記念写真 before|after(五)/海老原祥子

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本連載は2020年の8月から9月にかけて開催された『記念写真 before|after』展を再構成したものだ(展示後に新たに撮影された未発表作の公開も予定している)。2013年度のキヤノン写真新世紀で優秀賞を受賞した『記念写真』は海老原の代表作であり現在も制作が続けられている。コロナ禍に見舞われた観光地への再訪の記録を作家自身が綴る。

観光地にある団体客用の撮影台に作家がビジネススーツ姿でひとり立ち、現地の撮影業者に撮影してもらった写真を購入する。ネガやデータは手元に残らず、撮影依頼から購入までの一連の流れと、渡された1枚の観光写真が作品となる。また、撮影はもちろんポーズも立ち位置、使うカメラやプリントする機材も全てカメラマンに任せるため、紙もプリントの大きさも一定ではない。 ほぼ同じ構図、衣装はビジネススーツで統一することを『規則』として始めた「記念写真」シリーズであるが、始まってから数年が経った今、コロナウイルスの拡大により安易な移動ができなくなった。

だからこそ、以前行った観光地に再度訪れた記録である。

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2020年8月17日(月曜)・快晴・最高気温34度

盆明けの月曜日だったにもかかわらず、松島には多くの人が訪れていた。少し遅い夏休みを取っている人が多いのかもしれない。

遊覧船受付の前に呼び込みの男性が数人おり、話しかけやすい人を選んで声を掛ける。写真屋がまだ営業しているかどうかを尋ねたが、彼はコロナの影響で団体が来ていないため、常駐していないと答えた。それでも、予約をすれば写真を撮ってもらえるということであった。

以前撮った写真を見せると、元々ここの写真屋の社長だった人が仲間にいると教えてくれた。促されるままに、同じく呼び込みをしていた少し大柄な男性に話しかける。

「以前、団体写真を撮ってもらったのでまた来ました。もう一度同じ場所で撮影をしたいのですがどこで撮影されていたかわかりますでしょうか?」
「わかるよ。決まった位置にしかステージを出さないから。あっちだよ、ついてきて」
写真屋の元社長は、団体写真を撮影するために使われていた場所を教えてくれた。

以前の写真を見せながら、「この写真に写っている台も、御社のものですか?」と聞くと、男性は「うん。台はあそこに置いてある、震災で流れてねえから。今もこの台使ってやってるよ」と返される。

広場の端の方を見てみると、目立たない場所に折り畳まれた台が置いてあるようだった。

「ここが撮影していた位置だね。ここに並んでいただいて、撮っているはずだよ。メインだとちょうど…..俺が何を見ているかわかる?」
彼が見ている方向に目をやると、松島のシンボル『五大堂』が見えた。
「五大堂の屋根ですか?」と答えると、
「そう。真ん中に五大堂が映るように並ばせて撮影するから……カメラマンはここで、椅子はこの辺に並べるんだよ」
と教えてくれた。

写真屋の社長なら知っているかもしれないと、ふと疑問に思ったことを口にしてみる。
「レンズって何mmを使っていたんですか?」
彼はすぐさまこう答えた。
「私たちはホースマンってカメラを使っているよ。あとフジカの69。台をここに置いて、カメラマンは三脚に乗って撮影する。だから同じように撮りたいなら三脚を使って撮らないと….海が見えない。」

何度か撮影に挑戦する。ちょうど昼時、激しい日差しが真上から差しており、うまく目が開かない。コロナ禍の影響で外に出ることがほとんどなかったからか、昼間ってこんなに明るかったっけ?と思う。そして近い構図にはなったものの、彼が言うように、三脚がないと完全に同じ構図にはならなかった。

撮影場所から引き上げる際、先ほどの男性に教えてもらった台や、恐らくここで写真を受け付けているのであろう場所、扉が閉まった写真屋を見つける。あの場所で、現像をしたり、写真を売っていたりするのだろう。

気がつくと、iPhoneの電源が落ちていた。どうやら、本体が高温になったため落ちたようだ。松島らしいものを何も食べていないことに気付き、ずんだもちとずんだシェイクを買って食べた。

東京でも食べられるずんだシェイク